歴史ナビゲーター・金谷俊一郎氏のワンポイントコラム

◆◇◆第2回


今回、ドイツに亡命したロシア系ユダヤ人ヴァイオリニスト、クライネフが登場しております。ユダヤ人はユダヤ教を信仰していたため、1500年以上にわたっておもにキリスト教により迫害を受けていましたが、この時期、ユダヤ人の生活を脅かすことになったのが、1902年に作成されたシオン賢者の議定書と、1917年のロシア革命です。シオン賢者の議定書はロシアの秘密警察が、ロシア皇帝に対する民衆の不満をそらすために捏造したものとされていますが、ロシアでユダヤ人が世界征服を企んでいるといった内容が記されています。また、1917年のロシア革命の功労者であったトロツキーはユダヤ人でしたし、レーニンもユダヤ系でした。その結果、ロシア革命こそがシオン賢者の議定書の結実であると喧伝する者たちが現れてくるわけです。この2つの出来事により、大国ソヴィエトの脅威とも相まって、ヨーロッパ各地に反ユダヤ主義の考えが高揚していきます。ユダヤ人受難の時代の幕開きとなるのです。



クライネフはこの波の中で自らが音楽を続けていくための最終手段としてスパイの道を選んだのかも知れません。
反ユダヤ主義を唱えるナチスのヒトラー内閣がドイツに成立するのは、この物語の2年後の1933年。ナチス党員、突撃隊がドイツ全土のユダヤ人住宅、商店や、ユダヤ教会であるシナゴーグなどを一斉襲撃した水晶の夜は、更にその5年後の1938年のことです。
最後の最後に、自分の心からやりたい演奏会をおこない、その後のドイツを見ずに亡くなったクライネフは、ある意味幸せだったのかも知れません。

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